大国主に賽銭を
絢子が棚橋の家に嫁したは齢十九の折である。 夫である大作は、もう五、六年も以前から眼病に患わされており、既にほとんど全盲に近い有り様で婚儀の席に臨んだという。 第二の人生、景気が良いとは世辞にもちょっと言い難いようなスタートだ。 しかし絢子に失望はない。 少女の頃から読書が好きで、経書の類を読み漁っては父親に「変物」扱いされ続けて来た人である。 ──塙保己一の例もあるから。 この際腕によりをかけ、夫の智能を磨きに磨き、そうしていずれは一廉の学者様よと仰がれるに至るまで、我が手で仕立ててくれようず、と。 夢のような展望に、却って湧き立つものを覚えたとのことだ。 それで始まった棚橋絢子の読み聞かせ…
2025/03/26 17:10