歴史の深い面影をたたえ 〜「古都」川端康成
人はみな<今>を生きています。当たり前だけれど。ところが、人は<今>というものの豊さやかけがえなさを、ほんの少ししか受け止めることができません。だから過去を振り返って、「ああ、あのときは...」と感慨にふけったり、悔やんだりする。そして時を経てようやく、遠い過去になったかつての<今>の豊さに気づきます。 川端康成という大家の魅力は、そんな<今>のかけがえのなさを、現在進行形で的確にくみ取り、繊細な言葉で定着していくことで成り立っていると思います。それは並の感性でなせることとは思えません。 「古都」(新潮文庫)を読みながら、一言ひとこと綴られる今に引き込まれました。 <今>とは、些細な日常です。…