第2話 野口英世(Part1)『火傷と筆と借金と――天才が生まれるまで』
ある寒村の片隅に、ひとりの男の子がいた。その手は、幼き日の不注意で、ひどい火傷を負っていた。 彼の名は、野口英世。後に世界の細菌学者として名を馳せるその少年は、しかし幼き頃から神童でもなければ、勤勉でもなかった。むしろ、どちらかといえば、いたずらっ子で、泣き虫で、どこか「大物になる奴」の匂いがしなかった。 だが、母の愛だけは、深く、そして揺るがなかった。母・シカは、英世の焼けただれた左手を見て、こう思ったのだという。「この子が、人様の前で手を隠さず、堂々と生きていけるようにしてやりたい」 この“母の祈り”こそ、英世の背中を押しつづけた見えない力であった。 やがて彼は、医者を志し、上京し、医学専…